鈴木研究室での研究テーマ

鈴木研究室ではそれぞれのメンバーが皆異なるテーマに関して研究しています。研究テーマは流体力学、再突入カプセル、数値流体力学、理論流体力学、惑星探査機、渦現象、乱流現象、プラズマによる気流制御などと多岐にわたっています。鈴木研究室には柏キャンパスの新領域先端エネルギー工学専攻、及び、本郷キャンパスの航空宇宙工学専攻の学生が居り、航空宇宙工学のみならず他分野との融合研究を進めています。このページで紹介しているテーマの他にもいろいろなトピックについて研究を行っています。

研究テーマ概要(抜粋)

進行中プロジェクト:

柔軟構造をもつ次世代型大気
突入機・惑星探査への挑戦

破壊や衝突を含む粉体流れの
運動特性の観測

地球低軌道周回ミッションのための
セイル型衛星のダイナミクス
に関する研究

完成されたプロジェクト:

PINNsの超音速流体力学への応用

月惑星探査に向けた
粒状体への衝突・貫入現象
に関する数値シミュレーション

極超音速流中における
複数物体間の相互作用

氷天体における大気突入の物理と
アストロバイオロジー

空気力、構造、姿勢、軌道の連成解析
によるスピン型ソーラーセイルを用いた
火星エアロキャプチャに関する研究

極超音速流れ場に対する空気
および水の逆噴射ジェットの
影響に関する研究

Mathematics of
nonequilibrium relaxation

将来型極超音速機の空力制御に向けた、
放電プラズマによる気流制御技術

極超音速飛行体の
ソニックブームに関する研究

特性曲線を用いたCFD解析
結果からの衝撃波同定法

Hypersonic aerothermodynamics
of next generation
spacecrafts

火星エアロキャプチャ衛星の空力形状
および軌道制御の同時最適化に関する研究

スクラムジェットエンジンへの
MHD発電技術適用に向けた
数値解析

大気圏突入を想定したイトカワ型小惑星の
極超音速空力軌道特性
に関する研究

低Re数領域の翼まわりの流れ
に関する研究

縦渦の分岐に関する研究

再使用型二段式垂直離着陸
宇宙輸送機の概念検討

二重核構造耐熱システムの検討

Hele-Shawの実験装置による
流体力学実験

進行中プロジェクト(抜粋)

柔軟構造をもつ次世代型大気突入機・惑星探査への挑戦

宇宙からの次世代型帰還システムである、柔軟構造エアロシェルを利用した大気突入システムについて、鈴木研ではJAXAと共同で研究しています。従来型の大気突入カプセルは、大気圏を通り抜ける際に強力な加熱を受けるために、カプセルの熱防御やそれに伴う重量の増加と云った多くの問題を抱えてきました。このような「熱に耐える」従来型のカプセルでは、宇宙ステーションからの非常用ライフボートなど高い安全性が求められる場合や、宇宙探査で得られた物資の安全な地上への輸送の際、安全性・信頼性の確保が課題となります。

これらの問題を解消すべく、そもそも加熱をほとんど受けずに地上へと帰還できるカプセルを開発するため柔軟構造エアロシェルを利用した大気突入システムの開発を行っています。2012年には内之浦宇宙センターで観測ロケットを用いた大気再突入実験を行い、カプセルの安全性を実証しました。これらの成果を基に、2017年には宇宙ステーションからの小型カプセル実証試験(「EGG」)を実施しました。現在は火星探査機への応用を目指した研究を実施中です。

火星軌道連成解析

破壊や衝突を含む粉体流れの運動特性の観測

小惑星表面で舞い上がる粒子や火砕流などに代表される高速領域の粉体流れは、粒子同士の破壊や衝突が発生するため複雑な流れとなります。実際の現象を予測するには実験・数値計算ともに基礎的な研究例が不十分であるというのが現状です。
本研究室では、このような高速領域の粉体流れの特性を探るため、一様な粒子空間中に高速で物体を射出し、粒子の変動を観測する実験を独自に立ち上げました。飛翔体や粒子の材質・速度が流れ場に与える影響を定性的に分析するほか、レーザーシートを用いた粒子場内部の可視化等も進めています。

ダスト中の飛翔体模型

革新的地球低軌道周回ミッションのための空力と太陽輻射圧両用セイル型衛星のダイナミクスに関する研究

ソーラーセイルは、燃料を使わずに太陽輻射圧で衛星を推進させる薄くて軽い構造の宇宙飛行体です。従来、ソーラーセイルは地球周回軌道を超えた深宇宙で使用が検討されてきました。一方、宇宙空間で最も利用価値が高く、実際、多くの人工衛星が飛行している地球低軌道については、有望視されているものの、十分な研究は行われてきませんでした。本研究の目的は、このような用途に向けたソーラーセイル技術の成熟度を向上させることです。ここでは、宇宙での実験に代わるものとして、シミュレーションを使用しています。ピラミッド型のソーラーセイルについて多くの文献データを調べたところ、特に地球低軌道用途に適していることが確認されました。研究の第一段階として、地球低軌道環境の高忠実度シミュレータを開発しました。この数値計算プラットフォームでは、地球低軌道領域におけるピラミッド型ソーラーセイルに特化した詳細なモデリングがなされており、太陽光が地球で反射してやってくる光の輻射圧と機体表面からの反射光が機体の別の面に当たることによる輻射圧がそのダイナミクスに与える影響を世界で初めて明らかにしました。第二段階では、このシミュレータを使用して地球低軌道ソーラーセイルの基本的な軌道および姿勢力学特性を明らかにしました。第三段階として、ダイナミクスに関する知識を基に、地球低軌道ソーラーセイルの新しいミッションコンセプトを設計・評価しました。

数値シミュレーションの結果

完成されたプロジェクト(抜粋)

ダスト中の飛翔体模型

極超音速流中における複数物体間の相互作用

極超音速流中における複数物体間の相互作用は、自然現象や人工物において頻繁に遭遇する問題であり、研究者の間で大きな関心を集めています。本研究では、このような現象を理解するための第一歩として、爆轟波アナロジーとニュートン法を組み合わせた数値モデルを用いて、極超音速流中の2球体システムの空力とそれによる相対運動に着目しました。球体が最初に接触している状況を想定し、後方にある球の挙動は、(1)先行球のバウショックの上半部分に沿って飛行する、(2)遠方まで先行バウショックの中にとどまる、(3)最初から先行バウショックから離れる、という3つの基本パターンのいずれかを取ることが分かりました。軌道パターンを決定するいくつかの潜在的なパラメータを主成分分析(principal component analysis, PCA)により検討することで、2つの球体の間の初期位置角度が支配的であることが分かりました。数値モデルの結果を検証するために、2つの球体の分離過程を風洞実験で観測しました(以下の図)。実験で得られた軌道は、上記モデルの予測値と良い一致を示しました。さらに、数値流体力学(computational fluid dynamics, CFD)による検証を行った結果、強い衝撃波-衝撃波相互作用のない領域では、数値モデルが良好に動作することが示されました。

風洞実験

PINNsの超音速流体力学への応用

ディープラーニングは、画像認識や自然言語処理などの様々な応用分野において、分類、パターン認識、回帰問題などのタスクの解法を一新しました。近年、物理法則に基づいたニューラルネットワーク(physics informed neural networks, PINNs)という新しいクラスのニューラルネットワークが、微分方程式に支配される科学計算問題を解く有望な手法として登場しました。PINNsは、微分項を評価するために離散化スキームを用いる従来の数値計算手法とは異なり、偏微分方程式をニューラルネットワークの損失関数にエンコードし、サンプルポイントに対して学習を行うものです。そのため、メッシュを用いる必要がなくなりました。本研究では、衝撃波管問題や斜め衝撃波問題などの不連続性(衝撃波)を含む圧縮性流れ問題にPINNsを適用し、超音速流体力学問題の新しい解法としての可能性を検討しました。

PINNにおけるシミュレーション結果1 PINNにおけるシミュレーション結果2

月惑星探査に向けた粒状体への衝突・貫入現象に関する数値シミュレーション

近年、地表面がレゴリスと呼ばれる粒状体で覆われた月惑星への着陸探査が盛んに行われるようになってきています。粒状体は、流体のような挙動を示す一方、粒子1つ1つが固体のようにも振る舞うため、複雑な現象となります。また、微小重力や真空環境といった実際の探査環境を地上で模擬することは困難なため、数値シミュレーションによる現象の理解及び、宇宙機設計へのフィードバックが大変重要となります。粒状体への衝突・貫入現象に関しては、惑星科学の分野で研究がなされてきましたが、宇宙機のような人工物との接触や衝突衝撃問題に関する数値モデリングに関しては研究例が少ないのが現状です。

本研究室では、このような粒状体への衝突・貫入特性の理解のため、数値シミュレーション手法の構築を進めています。粒状体挙動の解明に関する基礎的な研究から、月着陸脚を模擬したインパクタの衝突といった応用的な研究まで、将来の月惑星探査を見据えた研究を幅広く行っています。

実験と数値シミュレーションの結果

氷天体における大気突入の物理とアストロバイオロジー

氷天体が大気突入する際、空力加熱により様々な化学反応が起こります。これにより生成する物質が太古の地球において生命前駆物質となったのでは無いかと考え、これを解明するために実験的、理論的手法により研究しています。

空気力、構造、姿勢、軌道の連成解析によるスピン型ソーラーセイルを用いた火星エアロキャプチャに関する研究

近年、深宇宙探査機の構造としてソーラーセイルや薄膜太陽電池のような膜面構造が注目を集めています。膜面構造は軽量性や収納性という点で優れていますが、外力の影響を受けやすく構造変形や姿勢変化を起こしてしまうという問題があり、これまでは大きな外力が働かない惑星間空間でしか使われてきませんでした。しかし将来的には火星や木星といった大気を有する惑星の近傍で使うことを考えており、さらには積極的に大気抵抗を受けて減速するエアロキャプチャやエアロブレーキのようなミッションに使っていきたいと考えています。
本研究ではこのようなミッション検討を可能にするために、空気力による膜面の構造変形を考慮した姿勢・軌道解析の手法、すなわち空気力・構造・姿勢・軌道の連成解析の手法を確立しました。そして実際にこの手法を実装してシミュレータを開発し、スピン型ソーラーセイルを用いた火星エアロキャプチャのシミュレーションを行いました。その結果、2010年にJAXAによって打ち上げられたIKAROSと同等のソーラーセイルでは、火星周回軌道への投入に必要な減速量と膜面が空力加熱によって焼失しない軌道の解が存在しないことがわかりました。しかし衛星本体の重さをCubesatクラス(10kg)に軽量化し、膜面の四隅に搭載するおもりの重さを5kgと重くすることによって、膜面構造を維持したまま上記の両条件を満たす解を発見しました。すなわちソーラーセイルという比較的単純な膜面構造を使って大気抵抗のみによって減速し火星軌道に投入するという、超小型火星オービターの実現可能性を示しました。

火星軌道連成解析

極超音速流れ場に対する空気および水の逆噴射ジェットの影響に関する研究

音よりも速く移動する物体前方には衝撃波と呼ばれる圧縮波が発生し、その背後では空気が高温高圧になるため、物体には大きな負荷がかかります。そこで、物体前方の淀み点から主流方向へジェットを噴射する(逆噴射ジェット)と、ジェット先端に斜め衝撃波が形成され、機体にかかる空気抗力や淀み点近傍での空力加熱は軽減されることが知られており、これをジェットのスパイク効果と呼びます。
スパイクの長さが十分でない場合、斜め衝撃波が機体に衝突し、そこでは圧力と温度が急激に上昇します。気体の逆噴射ジェットの場合、十分なスパイク長を得るためには高いジェット圧が必要ですが、液体は密度が気体よりもはるかに大きいため、強力な慣性によってスパイク長を伸ばすことが期待できます。
気体の逆噴射ジェットについてはこれまでに多くの実験的および数値的研究がなされてきましたが、液体の逆噴射ジェットに関する研究事例は少なく、特に流れ場の詳細は十分に解明されておりません。本研究では、液体を用いた逆噴射ジェットが極超音速気流に及ぼす影響を理解するために、以下の項目で風洞実験を行いました。

水逆噴射ジェット1 水逆噴射ジェット2

Mathematical and Numerical Comprehension of Nonequilibrium Relaxation by Using Kinetic Equations and Its Extension to Reactive and Relativistic Gas

Mathematical and Numerical Comprehension of Nonequilibrium Relaxation by Using Kinetic Equations and Its Extension to Reactive and Relativistic Gas.

理論流体力学

将来型極超音速機の空力制御に向けた、放電プラズマによる気流制御技術

近年航空分野では電磁気力を用いた空力制御技術の研究が注目されています。電磁気力を用いた気流制御装置をフラップなどの従来の空力制御装置と比べると

等の利点があり、特に高速で飛行する将来型極超音速機をより安全な物にする上で重要です。

極超音速気流中での放電は、流れが速いことにより通常とは異なった性質を示すことが予想されますが、極超音速気流中での放電は今までほとんど研究されてい ません。将来放電プラズマを空力制御に応用するための基礎研究として、本研究では放電プラズマが極超音速流れに与える影響を調べることを目的としています。

これまでの研究の結果、極超音速機表面での放電により気体の制御モーメントをごく短時間に発生させることができることが判明し、将来の極超音速機空力制御のための補助デバイスとして期待されています。

放電気流制御 放電気流制御

極超音速飛行体のソニックブームに関する研究

ソニックブームは衝撃波が地上にもたらす音響現象であり、次世代高速輸送機を導入する上で最も重要な課題です。右図はソニックブームの伝播過程を示したものです。機体から発生した衝撃波は非線形効果により整理統合され、遠方ではN波と呼ばれる圧力波形を形成します。その結果、急激な圧力上昇により、地上では2度の爆発音(ソニックブーム)が観測されます。
現在、ソニックブームに関しては世界各国で研究が行われていますが、極超音速領域での研究例は非常に少なく、その伝播特性は不確かな状態です。極超音速機の場合、超音速機よりも飛行高度が高く、マッハ数が大きいため衝撃波角が小さくなります。また、極超音速流の場合、超音速流よりも非線形効果が強くなり、超音速流とは異なる挙動を示す可能性があります。以上から、極超音速機の方が超音速機よりもソニックブーム問題を容易に解決できる可能性があります。
本研究では、極超音速飛行体のソニックブームに着目し、数値解析と実験の双方を用いて研究を進めています。数値解析では、一様大気及び実在大気を想定し、高度25kmから地上までの全空間シミュレーションを行っています(左図参照)。そして、極超音速飛行体のソニックブーム特性を検証し、簡易推算手法であるWhithamの修正線形理論や波形パラメータ法の有効性も検討しています。実験では、極超音速気流中(東大柏極超音速風洞、マッハ7)にて近傍場圧力波形を取得し、数値解析結果と比較検討しています。

ソニックブーム ソニックブーム

特性曲線を用いたCFD解析結果からの衝撃波同定法

音よりも速く移動する物体の前方には必ず衝撃波が発生します(左図参照)。これは音波が集積し強め合って発生する波動であり、その背後では空気が高温高圧となるため、超音速旅客機の設計においては、いかにこの波動が小さい形状を作るかが重要になります。しかし、衝撃波の可視化は想像以上に困難です。その最たる理由は、流れの中には衝撃波以外の波動も存在することです。つまり、衝撃波に似ているが衝撃波ではない、といった紛らわしい波動もたくさんあるのです。そこで、本研究では衝撃波が衝撃波たる所以を厳密に追うところから始まります。
1) 特性曲線
衝撃波とは何か?これを数学的に定義したものが「特性曲線の衝突」です。特性曲線とは、圧縮性流体力学のような波動現象を扱う際に重要になる概念で、その曲線に沿ってRiemann不変量という特殊な物理量が保存されます。これらが衝突を起こす場所において、Riemann不変量はもはや保存されず、保存関係が破綻を起こします。これこそが衝撃波なのです。
2) 線形微分方程式と臨界線
では、どうやって特性曲線の衝突を見つければいいでしょうか?答えは、理系学生なら誰でも学ぶであろう、線形微分方程式にあります。特性曲線の微分方程式を考え、それらの解曲線が収束する線(臨界線と言います)だけを抽出することを考えます。もしその方程式が線形であれば、臨界線は方程式の係数行列から容易に求めることができます。
3) 衝撃波の検出
以上をまとめると、(1)特性曲線の方程式を立て、(2)その臨界線を求めるという、極めて簡単な、しかし数学的に厳密な操作によって、衝撃波を抽出することができます。右の図は検出の一例です。これまで、はっきりとした形で示すことができなかった衝撃波というものを、この方法によって明確に示すことが可能になります。現在、この方法をより広い範囲に拡張する研究を進めています。

衝撃波 衝撃波

Hypersonic Aerothermodynamics, Next Generation Spacecrafts & their interactions with Environments

Long-range intercontinental transportation of cargo and passengers has produced a demand for cost-effective hypersonic technology, which can provide the maximum payload for a given range and the shortest possible travel times. For a given range, in terms of average fuel consumption, the emphasis is on a technology capable of withstanding all the aerodynamic and thermal loads present in the flight environment. A thermal protection system needs to be developed which can mitigate the impact of exposure to hot gases by acting as a blanket to the inner structure and thereby reduce the likelihood of hazards, while minimising the required mass. The aerodynamic heating of a vehicle traveling at hypersonic speeds is a function of its geometry and trajectory. Hence, hypersonic studies have long been a focal point of research in this field, and will continue to attract the attention of researchers from around the globe, owing to new and critical challenges being encountered in the hostile environments of such flights.

The research we are currently pursuing aims to establish an innovative geometry for future vehicles traveling at hypersonic speeds, specifically for intercontinental commercial travel, and eventually for extension to trans-atmospheric missions. The study focuses on aerodynamic and thermodynamic perspectives in order to yield a futuristic fuel-efficient configuration. This is planned to be done through both experimental and computational investigation.

Lifting Body Configuration

火星エアロキャプチャ衛星の空力形状および軌道制御の同時最適化に関する研究

火星は様々な理学的興味を有するため関心度の高い探査目標として掲げられており、低コスト輸送技術の確立は急務であると言えます。化学推進による従来型の軌道投入方式に 重量的難点があるのに対し、エアロキャプチャは大気抵抗を用いた減速を行うため、必要な燃料を大幅に節約することができます。
この重量メリットを最大限に活かすためには、想定される多様な不確定性に対してロバストであると同時に、熱負荷を最小限に抑えながら必要十分な減速を行う必要があります。このようなエアロキャプチャの最適設計問題は、巡航状態が存在する航空機等の最適設計とは異なり、どのような空力形状を持ち、同時にどのような飛行軌道を選ぶかという問題に帰着することになります。
そこで、空力特性を決定する幾何学的変数と、飛行経路を決定する時間依存の制御変数をセットで扱い、両者を同時に最適化しました。その結果、飛行軌道のみを最適化した場合に比べて、制約条件を十分に満足 し、かつ、各目的関数値を大幅に改善できる解を得ることができました。また重量メリットを最大化する空力形状や軌道制御の特徴を把握するとともに、重量メリット最大化と不確定性に対するロバスト性とのトレードオフの関係を明らかにすることができました。

火星エアロキャプチャ

スクラムジェットエンジンへのMHD発電技術適用に向けた数値解析

完全再利用型のスペースプレーンの開発において必要不可欠と考えられているのが、極超音速飛行時に動作するスクラムジェットエンジンです。しかし、スクラムジェットエンジンは様々な気流条件に対応しづらいという問題があります。 例えば、構造を簡単にして形状を固定すると、エンジンの冷却は容易になり、設計された条件では高い性能を実現できますが、一方で、加速途中など設計値からずれた気流条件では最適な条件を作れません。

スクラムジェットエンジン スクラムジェットエンジン

そこでMHD発電技術を適用した上図のようなMHD発電技術適用型スクラムジェットエンジンのシステムを提案し、数値解析的な検討をおこないました。 具体的には、インテークに設置したMHD発電機はチャンネル内で発生するローレンツ力を用いてインテークの流れを制御することを目的とし、燃焼器下流に設置されたMHD加速器にはインテークで失われた流れの流速を回復するために、設置された外部起電力を用いて流れの加速が行われる、というシステムを考案しました。 このシステムの数値解析的な検討を行ったところ、より広いマッハ数でスクラムジェットエンジンを動作できることを確認することができました。

大気圏突入を想定したイトカワ型小惑星の極超音速空力軌道特性に関する研究

2003年5月に打ち上げられたJAXAの惑星探査機はやぶさによって小惑星25143イトカワの詳細な調査が行われました。小惑星イトカワはこれまで調査された小惑星の中でも最も一般的なものとされています。その形状は図1から分かるように動物のラッコのようです。このようなものは、設計コンセプトのあるスペースシャトルや航空機といった人工物と比べて、空気力学的な特性や飛翔中の挙動の予測が難しく、そのような研究も少ないと思われます。

小惑星25143イトカワ 表面圧力係数推算

そこで本研究では、小惑星イトカワをモデルケースとして、小惑星イトカワの大気圏突入を想定した極超音速飛翔時の空力軌道特性について調査しています。小惑星イトカワは航空機などと違い、飛翔時には前も後ろもありません。そのため、すべての姿勢での空力特性を知る必要があります。しかし、全ての姿勢で空力特性を調べるのは実験やCFD (Computational Fluid Dynamics)では時間的なコストを考えると現実的ではないので、本研究では空力解析に計算コストの小さいニュートン流理論という簡易空力推算方法を使用しています。その結果をCFDと風洞実験によって評価することで本研究の条件におけるニュートン流理論の有効性を確認しています。そして、その推算結果をデータベースとして使用し、軌道解析を行うことで小惑星イトカワの地球大気圏飛翔特性を調べます。

低Re数領域の翼まわりの流れに関する研究

近年の急速な技術の発展に伴って、災害現場や極限環境下における観測を目的とした、小型の無人機の開発が進んできています。これらの飛行機には、私達がこれまで利用してきたような旅客機などの飛行機に比べて、飛ぶスピードが「とても遅く」、また機体の大きさが「小さい」という特徴があります。このため、機体まわりの空気の流れの性質がこれまでの飛行機のものと大きく変わり、場合によっては翼が生み出す揚力が大きく減少し、飛行機が失速状態に陥ってしまうため、空気の流れの様子を理解することは、小型の無人機の普及を進めていく上でとても大切になってきます。本研究では、このような飛ぶスピードが「とても遅く」、また大きさが「小さな」飛行機の翼まわりの流れの様子を数値シミュレーションを使って調べることを目的としています。

DNS

縦渦の分岐に関する研究

渦崩壊現象は縦渦の構造が急激に変化する現象として知られているが、その物理的なメカニズムは未だわかっていない。本研究では渦崩壊現象を縦渦の幾何学的分岐現象として捉え、力学系理論の観点から流れ場の分岐パターンを構成する。

DNS DNS

再使用型二段式垂直離着陸宇宙輸送機の概念検討

物資や人の宇宙輸送コスト削減は、宇宙開発事業や宇宙産業の促進に重要である。再使用型宇宙輸送機(Reusable Launch Vehicle, RLV)は、宇宙輸送コストを大幅に削減できる可能性があり、過去〜現在までに多数のコンセプトが考案されている。打ち上げ〜帰還まで分離なしで再使用するSingle-Stage-to-Orbit(SSTO)はこのRLVの理想形として多数の研究事例があるが、厳しい質量軽量化要求を達成できず、実現に至っていない。このため、より現実的な形態としてシステムを2段拡張したTwo-Stage-to-Orbit(TSTO)が現在のRLV研究の主流である。TSTO-RLVでは、SpaceX社による既存使い捨てロケット技術を流用して再使用化する構想が注目されている。しかし、既存システムを単純にRLV化すると、機体システムが使い捨てより高価なRLVの基数が増えて高コスト化する懸念がある。そこで、本研究では既存使い捨てロケットを垂直離着陸型のTSTO-RLVとして低コスト化できるシステムを提案し、SSTOに対する代替可能性や既存システムとの競争力の比較を行った。結果、再使用Orbiterに中心軸内臓小型使い捨てBoosterを搭載したコンセプトと再使用Orbiterに小型使い捨てBoosterを下段設置した2種類のモデルでSSTOに対して同等またはそれ以下の低コスト化システムが構築できる可能性が示された。

再使用型二段式垂直離着陸宇宙輸送機 再使用型二段式垂直離着陸宇宙輸送機

二重核構造耐熱システムの検討

極超音速飛行体は厳しい空力加熱にさらされるためミッションを無事完了するためには機体を空力加熱から守るための耐熱システム(TPS:Thermal Protection System)が必要です。TPSには①機体への流入熱を小さくする②機体の断熱性能自体を向上させる、という2つが挙げられます。しかし、前者は飛行体の形状の変更を伴うため低抵抗などの空力特性上の要求から必ずしも対策可能とは限りません。そこで本研究では前縁部TPSとして「外側板」「柱」「内側板」の3部分からなる二重殻構造TPSを提案しました。

二重核構造耐熱システム 二重核構造耐熱システム

「柱」の設置した位置によって温度分布が大きく変化し、二重殻構造の伝熱傾向として①後方からの輻射流出②空洞部分の輻射伝熱という2つが考えられました。結果として「柱」をバランス良く配置することで二重核構造TPSは高い耐熱性能がのぞめることがわかりました。

Hele-Shawの実験装置による流体力学実験

本研究室では流体力学全般にわたる研究も行っており、その一環としてポテンシャル流れと等価な流れ場を再現できるHele-Shawの実験装置を作成し、流れ場の可視化を行った。詳細は下記の報告書を参照。

Hele-Shawの実験装置

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